Fn-[7]Helicene

フッ素置換[7]ヘリセンがドミノ光反応を起こすためには、何個のフッ素が必要なのだろうか

“Synthesis of Terminally Fluorinated [7]Helicenes and Their Application to Photochemical Domino Reactions”
Chem. Asian J. 2021, 16, 538–547.
[DOI: 10.1002/asia.202001295]
Hot Topic: Fluorine Chemistry に掲載されました。

[7]ヘリセンの末端のベンゼン環にフッ素を4個導入したF4-[7]ヘリセンは、光照射でDiels–Alder反応を起こし、さらに、光照射で二重フッ素転位反応を起こします(Commun. Chem. 2018, 1, 97)。一方、無置換の[7]ヘリセンは、同様のドミノ光反応を起こしません。フッ素置換[7]ヘリセンがドミノ光反応を起こすための条件を明らかにしたいと思い、本研究がスタートしました。


F3-[7]ヘリセン
F4-[7]ヘリセンと比べてフッ素が1個少ないF3-[7]ヘリセンについて、ドミノ光反応性を調べました。Diels–Alder反応におけるジエノフィル部位にフッ素が2個ある場合は、ドミノ光反応が起こりました。しかし、F4-[7]ヘリセンと比べて、反応の進行は遅くなりました。一方、ジエノフィル部位にフッ素が1個しかない場合は、ドミノ光反応が全く起こりませんでした。

F3-Photochemical domino reaction


F2-[7]ヘリセン
ジエノフィル部位にのみフッ素が2個あるF2-[7]ヘリセンについても、ドミノ光反応性を調べました。F3-[7]ヘリセンよりも反応性は低下しましたが、F2-[7]ヘリセンでもドミノ光反応が進行しました。フッ素置換[7]ヘリセンがドミノ光反応を起こすためには、ジエノフィル部位にフッ素が2個あれば十分であることを証明しました。

F2-Photochemical domino reaction

F2-[7]ヘリセンの構造は、X線結晶構造解析で確認しました。フッ素が4個あるF4-[7]ヘリセンでは、末端のベンゼン環どうしでArH–ArF相互作用が強く働いていましたが、フッ素が2個に減少したF2-[7]ヘリセンでは、ArH–ArF相互作用が弱くなっていました。これに伴い、Diels–Alder反応に関与する反応点間の距離も長くなっていました。

Fn-[7]Helicene distance

フッ素の位置が異なる異性体を分離する
F3-[7]ヘリセンの場合と同様の方法でF2-[7]ヘリセンを合成すると、フッ素の位置が異なるF2-[7]ヘリセンも得られます。合成経路の最終段階で両者を分離することは、収量・収率の観点から得策ではありません。そこで、合成経路の初期段階で、部分骨格であるF2-フェナントレン環を構築することにしました。カラムクロマトグラフィーを繰り返し行い、気合根性で、目的のF2-フェナントレン(A)を単離しました。

F2-phenanthrene

フッ素置換[7]ヘリセンの光反応性やフッ素置換[4]ヘリセンの結晶中における積層様式を、導入するフッ素の数や位置を変化させて丁寧に解析することで、フッ素置換ヘリセンの性質が徐々に明らかになってきました。フッ素置換ヘリセンのように芳香環がねじれた化合物を、光照射で有用な物質に変換することが今後の課題です。


本研究を進めるにあたり、実際の合成やドミノ反応の解析を担当してくれた松田千可子さん、鈴木雄斗くんに感謝いたします。また、X線測定では、山形大学大学院理工学研究科・片桐洋史教授に大変お世話になりました。