はじめに
我々の研究室では、「分子の潜在能力を引き出す」を合言葉に研究に取り組んでいます。ここで分子の潜在能力とは、分子の内部に秘められた化学変換を起こす能力という意味で用いています。例えば、身動きが取れない狭い空間に分子を閉じ込めると、通常のガラス製のフラスコ内では不可能であった反応が可能になります。すなわち、分子を取り巻く環境を整えてあげることで、分子の潜在能力を引き出すことが可能になります。分子が溶媒という大海原を漂っている時とは異なる反応性を発現させるのみならず、分子をある特定の立体構造、しかも通常では不安定な構造へと誘導させることも可能になります。分子がひとりでに集まって会合体や巨大な構造体を形成する能力(分子自己集合)は、分子の潜在能力の最たるものでしょう。合成化学を基盤にして、分子の新たな一側面を見つけていきたいと思っております。